受診する腹痛の目安について
腹痛は決して珍しい症状ではないものの、軽度から重度まであり、場合によっては命に関わることもあります。医療機関への受診が必要になるかの緊急性は、症状によって異なります。
緊急性がそこまで高くない腹痛
- それほど強い痛みではない場合
- しばらく痛みが続いたが、すぐに治まった場合
このような場合は、しばらく経過を観察しても大丈夫です。ただし、何らかの疾患による腹痛という可能性もありますので、なるべく近日中には受診することをお勧めします。
当日中に受診した方が良い腹痛
- 少量の血便や血尿を伴う場合
- 高熱を伴う場合
- 激しい下痢や嘔吐を伴う場合
- 皮膚や目の黄染(黄色く変色する)を伴う場合
- 歩くたびに腹部に響く場合
- 腹部を手で強く押さえ、離した時のほうが痛む場合
このような場合は、すぐに受診する必要があります。
速やかに救急車を呼んだ方が良い腹痛
- 腹痛を自覚した後、意識を失った場合
- 我慢できないほどの痛みに襲われ、背中を丸めてしまう場合
- 吐血を伴う腹痛の場合
- 腹痛による大量出血や血便が見られる場合
このような場合は緊急治療が必要ですので、すぐに救急車を呼びましょう。
腹痛の原因
「腹痛」という言葉は、胃痛、上腹部痛、骨盤内の臓器の痛みなど、幅広い痛みを指すため、腹痛の原因も多岐にわたります。
一般的に腹部の痛みと言えば、小腸や大腸などの下腹部の痛みを指すことが多いですが、それに加えて腎臓、脾臓、尿管、膀胱、子宮、卵巣、前立腺など、原因となる臓器が多岐にわたるため、腹痛の原因を特定することは非常に困難です。実際のところ、腹痛を訴えて救急搬送された患者様の40%は原因不明であったという報告もあります。
また、痛みの原因によって腹痛は「内臓痛」「体性痛」「関連痛」の3つに大別されます。
「内臓痛」は胃や大腸などの内臓に起こる痛みで、内臓が急激に収縮したり、けいれんしたりすることによって起こります。
内臓痛は、強くなったり弱くなったりする痛みを断続的に繰り返す症状が一般的です。痛みの発生部位もはっきりせず、鈍く曖昧な痛みが断続的に現れるのも特徴です。
また、腹痛の他に、吐き気、冷汗、下痢、便秘などの症状が現れることもあります。
体性痛は、内臓を包む腹膜と呼ばれる膜が刺激されることで起こる痛みです。体性痛は鋭く、場所も特定しやすく、場合によっては緊急治療が必要になることもあります。
関連痛とは、痛みの原因となっている部分と神経で繋がっている体の部分に起こる痛みが、体の表面の一部分で感じられるのが特徴です。
腹痛で考えられる消化器疾患
腹痛の原因となる主な消化器疾患には、以下のようなものがあります。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、胃酸によって胃や十二指腸の粘膜が傷害され、内壁が炎症を起こして傷ついた状態です。胃潰瘍・十二指腸潰瘍になると、胸痛、胸やけ、胃のもたれ、吐き気、嘔吐などの症状が現れます。
また、出血、吐血、黒色便、血便を伴うこともあります。一般的に、胃潰瘍は食後に、十二指腸潰瘍は食前に痛みを引き起こすことが多いとされています。
逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流し、食道の粘膜に炎症を起こし、びらんや潰瘍を引き起こす疾患です。
症状としては、みぞおちのあたりの痛みに加え、胸やけ、ゲップが出たりすることなどが挙げられます。
急性虫垂炎(盲腸)
急性虫垂炎は、便などが虫垂(盲腸)に入り込み炎症を起こす疾患で、症状としては右下腹部の痛みに発熱を伴うのが特徴です。まずみぞおちのあたりに痛みが生じ、時間の経過とともに痛む場所が移動し、最終的には右下腹部に痛みが生じます。
急性虫垂炎を放置すると、悪化して虫垂が破裂し、腹膜炎を引き起こすおそれがあります。腹膜炎は、緊急手術を要する深刻な疾患であるため注意が必要です。
急性膵炎
急性膵炎は、暴飲暴食や多量飲酒、胆石、脂質異常症などが原因で膵臓が急激に炎症を起こし、腹部や背中に激しい痛みを引き起こす疾患です。
激しい痛みのために立った姿勢を維持することが困難であることが多く、膝を抱えて横になると痛みがいくらか和らぐのが特徴です。
急性膵炎が重症化すると、患者様の約50%が命を落とすと言われています。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は、腹痛や下痢、便秘といった便通のトラブルが慢性的に続く疾患です。特徴的なのは、こうした症状があっても検査では明らかな異常が見つからない点です。
発症には、心と体にかかる様々なストレスが関係していると考えられています。例えば、緊張や不安といった心理的な負担、季節の変わり目などの環境の変化、さらには過労や生活リズムの乱れなどがきっかけになることもあります。
腸の動きや感じ方が過敏になることで、腹部に痛みが生じることがありますが、多くの場合、排便をきっかけに痛みは軽くなります。
感染性胃腸炎(ノロウイルスやカンピロバクター、サルモネラ菌など)
感染性胃腸炎は、原因となるウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスなど)や細菌(カンピロバクター、サルモネラ菌など)への感染によって引き起こされる胃腸炎です。症状として腹痛、下痢、嘔吐、発熱などがあります。
大腸憩室炎
大腸憩室炎は、大腸壁の弱い部分が外側に曲がり、小袋(憩室)を形成し、そこに便がたまって炎症を起こした状態で、腹痛や発熱などの症状が現れます。
軽度であれば腸管の安静と抗生物質や鎮痛剤による対症療法で自然に改善しますが、憩室の壁は薄いため、炎症が進行すると穿孔(腸に穴があくこと)を起こすこともあります。
腹痛の検査
胃内視鏡検査
胃内視鏡検査(胃カメラ検査)は、上部消化管に異常が考えられる場合や、上腹部痛(みぞおち周辺の痛み)、胸やけ、胃のもたれなどの症状がある場合に行われる検査です。
喉から食道、胃、十二指腸にかけての粘膜を観察し、炎症や腫瘍の有無を調べます。
精査が必要な病変が見つかった場合は、組織を採取して病理検査を行い、確定診断を行います。
大腸内視鏡検査
大腸疾患の可能性が考えられる症状や下腹部痛がある場合は、大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)を行います。内視鏡スコープを肛門から挿入し、盲腸~直腸までの大腸全体の粘膜を観察する検査です。
検査中に大腸ポリープが見つかればその場で切除できます。また、精査が必要な病変が見つかった場合は、その場で病理検査用の組織を採取することで確定診断が可能です。
腹部エコー検査
腹部超音波(腹部エコー)検査は、大腸内視鏡検査では観察できない肝臓、膵臓、胆のう、胆管、腎臓、脾臓などの臓器の状態を調べるために行う検査です。
腹部レントゲン検査
腹部レントゲン検査は、小腸や大腸のガスの量や腸閉塞の有無を調べる検査です。
血液検査
血液検査は、炎症や感染の状態、肝臓や腎臓などの臓器の状態、貧血の状態を調べるために行う検査です。腫瘍マーカーなどを調べることも可能です。
腹痛でお悩みの場合は内科・消化器内科へ
腹痛は一般的な症状であり、多くの場合では心配ありませんが、痛む場所や関連する臓器は様々で、場合によっては重大な疾患の症状として現れていることもあります。
「何かおかしい」と思う症状があれば、消化器内科の受診をお勧めします。
消化器の疾患は進行すると重症化するものが多いですが、早期に発見できれば負担の少ない治療で完治できる疾患もあります。当院では大学病院などで長年研鑽を積んだ消化器の専門医が消化器の治療にあたっています。どうぞお気軽にご相談ください。
腹痛の状況を医師に詳しく伝えるポイント
痛みの詳細
シクシクと沁み込むような痛み、ズキズキと拍動するような痛み、キリキリと鋭く刺すような痛み、キューっと締め付けられるような痛みなど、痛みの種類やいつごろから痛むのか、急に痛くなったのか徐々に痛くなったのか、空腹時に痛むのか食後に痛むのかなど、詳しく伝えていただくことで、診断への手助けになります。
また、みぞおち(胃の奥)、左右のあばら骨の下、おへその上、右下腹部、左下腹部など、痛みの発生している場所を正確にお伝えいただくことができれば、どの消化管や臓器が痛みの原因となっているかを特定しやすくなります。 その他、気になる痛みや症状がある場合は医師にお知らせください。
症状と便の状態
胸やけ、吐き気、嘔吐、胃の膨満感、便秘、下痢、げっぷ、おならなど、腹痛以外の症状がある場合は、その症状についても医師にお伝えください。
また、便の色や形など、便の状態についても恥ずかしがらずに医師にお伝えください。便の状態は疾患の特定に役立ちます。
可能であれば、トイレで便の写真を撮影し、医師に見せていただけると正確な診断の助けになります。
痛みのあったときの食事や運動について
腹痛は食べ物が原因で起こることもありますので、いつもと違うものを食べた、食べたものがいつもと違っていたなど、お気づきの点があればお伝えください。
また、運動が原因で腹痛が起こることもありますので、運動習慣についても、いつもと違ったことをしたか、いつもより激しい運動をしたかなどをお知らせください。